プロダクトチームの頭の中を見える化しカスタマーサクセスへ。ロジックモデルの応用。【PdM連載:第2回】
アディッシュでチャットボットのhitoboのプロダクトマネージャーをしているイケヤと申します。プロダクトマネージャー連載の第2回の記事として、第1回の記事からの続編です。
前回記事はこちらからご覧ください。
今回は、
・ロジックモデルの紹介・応用
・ロジックモデルやOKRの弱点
・カスタマーサクセスへの応用
について主にお話します。
アウトプットとアウトカムの違いのおさらい
第1回の記事の簡単なおさらいです。
「おいしいタコスを販売する」プロジェクトを進めるとした場合は、以下のように表すことができます。
アウトプットはインプットと自分たちの活動から直接影響を出すことができます。しかし、「アウトカム」の難しい点は、アウトプットの影響から「結果として引き起こされる状態」のため、直接はコントロールができない点です。
以上が、アウトプットとアウトカムの違いの前回のおさらいです。
※詳細は前回の記事を参照してください。
ロジックモデルの考え方を応用する
事業における「インプット→活動→アウトプット→アウトカム→インパクト」を整理するためにロジックモデルという枠組みがあります。ロジックモデルは、元々はソーシャルセクターやパブリックセクターでよく使われる枠組みで、Web検索をすると行政や自治体に関するページが多く出てきます。
社会的な事業や公共施策は「施策の成果は結局どうだったのか?」についての評価基準を作らないと、成果を測りづらいためだと思われます。
※参考記事:馬田氏と語る、社会の変え方のイノベーション──未来の理想を道筋とともに提示する「4つの方法」とは?
「先行指標」に着目する
企業の場合も「先行指標」に着目しながら事業活動を進めるための構造の言語化のために、ロジックモデルの考え方を応用できます。
企業は売上や利益で評価できる側面はありますが、それらは何らかの活動の結果といった「遅行指標」です。また、事業がもたらす顧客への貢献や社会への貢献の大きさも、複数の活動の結果でしかありません。それらは「遅行指標」のため、結果が出るまで時間がかかります。
そのため、遅行指標にだけ着目していると分析やアクションが遅れ、結果として大きな成果を出しにくくなります。
「遅行指標」に至る過程のアウトプット・アウトカムの適切な分解ができることで、より大きなインパクトをもたらすための「先行指標」を見つけることが重要です。
speakerdeckスライド:ロジックモデルの説明P.20
インプット→活動→アウトプット→アウトカム→インパクト
ロジックモデルを構成する要素を解説します。
簡単に説明するために、前回の続きでタコス販売の例、プロダクト開発の例で説明します。
インプット
要は、ヒト、モノ、カネのいずれかに関するものとなります。
活動
アウトプットを生み出すための活動のことです。
アウトプット
活動により直接的に生み出す結果(成果物)です。
アウトカム
アウトプットにより引き起こしたいものはアウトカムです。最終的に引き起こしたい総合的な影響に対して、どれだけ貢献できているかを測る「先行指標」として用いることができます。
特にプロダクトに当てはめる場合は、提供する機能がもたらす「人の行動変化」の増加・減少を重要なアウトカムとして特定できると、ポジティブな大きい変化を生み出すための整理がしやすくなります。
例えば頭の中の認識の変化を測ることは困難ですが、認識の変化により実際に行った「人間の行動の増加・減少」は事実として観察できるためです
インパクト
この事業活動で得たい社会的影響を指します。
アウトプットとアウトカムの関係性
アウトカムを最大限に引き出すために複数のアウトプットにより影響を出します。例えば、労務担当者の業務改善をするプロダクトにおいて、アウトカムが「企業の労務担当者の事務処理作業をする時間を減らす」であれば、
そのアウトカムを引き出すためには、
など、複数のアウトプットにより、期待するアウトカムの変化を大きくします。
アウトカムとインパクトの関係性
以下のスライドは「発展途上国に井戸を設置する」場合の例の説明スライドです。インパクトは期待する複数のアウトカムの影響の結果となります。
アウトカムにより引き起こされるアウトカム
アウトカムの結果、さらに引き起こされるアウトカムがあります。ただし、全ての物事の因果関係を書きだすことは不可能なので「重要かつターゲットとしているアウトカム」を表現します。
ロジックモデルでは、「初期→中期→長期」や「直接→中間→最終」などで関連性を表したりします。
トップは長期目線のインパクト、メンバーは目の前のアウトプットに目がいく。
一般的に、企業のトップなど組織のトップは長期目線のインパクトを気にしています。一方で、現場メンバーは目の前のアウトプットに目がいきがちになります。
「期待しているアウトカムが何であるか?」をはっきりすることで、トップの長期目標を実現する過程と、現場メンバーはアウトプットを何のために生み出しているのかをアウトカムの特定を通じて紐づけることができます。
これらの構造を聞いてピンと来る方もいらっしゃると思いますが、これらはOKRを作るときの構造とも似ています。
ロジックモデルやOKR等の直線的なロジックツリーの弱点
ロジックモデルやOKRは、直線的なロジックツリー構造で表現しますが「理解がしやすい」代わりに弱点もあります。あくまで「一つのツール」として利用するものだと考えています。
ロジックツリーの弱点はOKRを作ったときの弱点とも共通するため、OKRの活用時もそれらを意識しておくことが重要です。
①ループ構造が表現しきれず、現実の因果関係の認識が抜け落ちるリスク
世の中ですぐに解決されていない問題は、ほとんどが「鶏が先か?卵が先か?」という構造を持った「何から手を付けると解決するかが簡単には分からない問題」です。
何かの問題を構造的に解決するとは、悪循環を好循環に変えることです。そこにはシステム思考で描かれる図のような因果関係のループ構造が存在します。
ロジックモデルやOKRのようなロジックツリー型で表現することは、複雑な因果関係を省略するから一目で理解しやすいといった側面もあります。
これはOKRの策定時にも気を付けるべき点で、「あくまで単純化した表現であること」を全メンバーが理解していることが大切です。仮説が違っていることが分かる事実を確認できたり、抜け落ちている重要な因果関係に気づいたときは、因果関係の仮説を描き直し、改善していくことが重要です。
②「弾み車」のようなダイナミックな構造づくりを意識しづらくなるリスク
アマゾン成功のベースにもなっている考え方に「弾み車(FLY WHEEL)効果」があります。
これらの各構成要素を回し続けることで事業の大きな推進力とする考え方です。新規事業を構築していく際や、長期的に成長をしていく事業経営をしていくには、弾み車を構成していくことまで考えていく必要があります。
ツリー構造だけで考えていると「複利が発生して成長が加速するような構造設計」を意識しづらい可能性があります。
③所詮は「仮説」であることを忘れてしまうリスク
どんなにロジックツリーを緻密に作ったところで、それは所詮は「仮説」です。事業活動を進めている間に、それが正しいものであると錯覚してしまうリスクがあります。
「これは仮説であり、この目標自体が本当に正しいかどうかは想定される変化が観察されるまで分からないこと」を常に気を付ける必要があります。
プロダクトのカスタマーサクセスへの応用
ロジックモデルの枠組みの場合、インパクトは「社会的影響」で考えますが、企業のプロダクトで応用する場合は、インパクトや最終アウトカムは「顧客が成功した状態」で定義すると相性が良いです。このあたりについて考え始めると「プロダクトにとってのよいOKRとは何か?」の議論とも似てきます。
また、少し余談となりますが、カスタマーサクセスと、自社の事業的な成功を結びつけるには、プライシングが鍵を握ります。
参考:プライシングとカスタマーサクセス
例えばSaaSやサブスクリプションビジネスは「うまくいっていない顧客は解約する」といった前提がある時点で、「顧客のより成功した状態」と「自社の売上・利益が上がること」の整合性を高く持ちやすい事業ですが、それらの整合性を高く持つにはプライシングが鍵を握っています。
例えば、カスタマーサクセスとの整合性を高めるために、価格条件について以下を組み合わせることが考えられます。
顧客の社内で使うユーザーが増えれば増えるほど顧客のメリットが大きくなると感じられるプロダクトであれば、ユーザー数による課金。
上位の機能を使えば使うほど顧客がメリットを感じられるプロダクトであれば、機能単位での課金。
顧客がたくさんの量を使うほどメリットが大きくなると感じられるプロダクトであれば、使用するデータ量や使用回数での課金。
「顧客が成功した状態」と「それを生み出すアウトカム」と「価格条件の整合性」はカスタマーサクセスを重視する企業にとっての重要なテーマとなります。
プロダクトのアウトプットとアウトカムとは?
特にプロダクトマネジメントの領域では、
プロダクトの目標に対して、追うべき先行指標となるアウトカムを見つけられるか?
重要なアウトカムは何があるか?(同時並行的に考えるべき複数のアウトカムや、アウトカムの結果として引き起こされるアウトカムなど、複数のアウトカムがある。)
それぞれのアウトカムを最大化できるアウトプットは何か?
これらを、考えたり、発見したり、変化を認識できることは重要な活動となります。
プロダクトマネジメントとは:
「顧客における価値」と「自社における事業価値」を両立させること。
とも言えますが、それらが両立できるロジックモデルを成立させる活動とも言い換えられます。
①プロダクトの「顧客における価値」(=カスタマーサクセスの視点)
そのプロダクトを使うことで「顧客が成功し続ける」からプロダクトを使い続けてもらえるのであれば、その成功している状態とは「どんなアウトカムが生じている状態か」を言語化し分解しておくことが、事業の再現性と継続のために重要となる。
②プロダクトの「自社における事業価値」
売上、利益は結果でしかないため、事業の再現性と継続のためには、それらを出し続けられるアウトプット-アウトカムの構造作りと、それらの可視化や型化をしていけることが大事。
まとめ
アウトプットとアウトカムの違いを関連メンバーが理解していることは、事業やプロダクトを進めるにあたって重要です。
例えばある会社で「売上のことはみんな気にするが、コストの概念をほとんどの人が持っていない」としたら、恐らく将来に渡って、その会社が利益を上げることは難易度が高いテーマとなります。
それは、アウトプットとアウトカムの理解についても同じです。
一人一人の職種としての報酬はアウトプットに対して支払われていますし、報酬は働くことの大きな理由でもあります。しかし、プロダクトに関わるチームメンバーとしては、出すアウトプットはアウトカムに紐づけて進められることが大切です。
また、プロダクトのアウトカムが、社会的インパクトやカスタマーサクセスにつながっていることを常に可視化することは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三方よしの事業活動を進めることにもつなげられます。
次回
次回は、「社内ミーティングが99%うまくいく進め方って?」もしくは、「営業的なヒアリングと真の課題のヒアリングの違い(両方大事)」のどちらかを予定しています。
参考:ロジックモデルのアウトカム、インパクトの補足説明
ロジックモデルの作成の考え方は複数あります。私自身も調べていて混乱したので、理解した範囲の情報を補足します。どのタイプが「正しい」というものではなく、目的に合致した使い方をします。
(プロダクトにおいて、どのロジックモデルの作り方が最適かについての理解がまだしきれていないため、本記事では複数の考え方が混じっています。)
※参考書籍:「プログラム評価ハンドブック」(山谷清志 監修、源由理子・大島巌 編著)
Q&A
社内であったQ&Aについて参考までに記載します。
Q:主体を変えたらアウトプットとアウトカムの範囲が変わるのでは?
A:その通りです。あくまで主語に対して相対的に決まるものです。ただし、事業について考える場合はプロダクトが出せる影響が何か?を基準に言葉を揃えることで議論のフォーカスを合わせられます。プロダクトや事業の進め方を考える場合、対象顧客や社会などの外部に良い影響を与えることがメインなので、自社内のことではなく外部への影響で考えるように思考方法や言葉を揃えると良いです。
Q: 売上が上がるから自社が継続するし、自社が継続するから顧客にプロダクト(製品•サービス)を提供し続けられるし、顧客がプロダクトを使ってくれるから売上が継続する、といったループが存在するのでは?ロジックモデルで書くとそれが表せていないのでは?
A: はい。図の構造上、ループ構造を表しきるのは難しいと思います。捉え方としては、因果関係のループ構造から要着目箇所を抽出して書き出していると考えると良いです。
主な活用場面は、理想の状態への道筋を一から考え始める場面や、人に説明して伝える目的があるときに有効です。シンプルに物事を表した方が素早く全体像を捉えやすいためです。
Q: KGI、KPI管理と何が違うのか?単に言葉を言い換えただけではないのか?
A: 結果的にKGIやKPIに、アウトプットやアウトカムと同じものが設定されたとしても、捉え方としては別のものと思った方がよいです。
・ 何をKGI、KPIと置くかは、ある種「何を設定してもよい」ため、決定する人の経験やセンスに大きく頼る面がある。
・なぜそのKPIか?それが妥当なのか?の説明は必ず必要となる。
なぜそれをKGI、KPIとするのかの根拠として、アウトプットやアウトカムが事前に整理されているとチームメンバーもその理由を理解しやすくなります。
Q: 記事の中でアウトカムを「人の行動変化」と説明しているが、厳密には、例えばアウトプットを「開発した機能」とする場合、そのアウトプットが引き起こす直接のアウトカムはターゲットの人の「とりまく環境を変化させる」「認識を変化させる」「行動のトリガーとして作用する」ことではないか?
A: その通りです。ただ、理想の状態へ向かう変化とは何か?をはっきりするためには「人の行動変化」に注目してアウトカムは考え始めた方が良いと思います。
理由は、
・人間の「認識」など頭の中の変化の計測は難しいですが、行動変化は計測できることが多く、最終的に起こしたいインパクトの先行指標としやすいため。(特にITプロダクトの場合、クリックや閲覧などで計測できる行動が多い。)
・変化のキーとなるアウトカムが何かの認識を揃えることを最優先としたいため。
ただし、補足として以下に図に示しますが、おっしゃる通り「認識の変化」があって、次に行動変化が起こります。ロジックモデルの図をいくつか見ましたが、アウトカムを「直接→中間→最終」や、「初期→中期→長期」で分けた場合に、直接アウトカムや初期アウトカムは「認識の変化」で定義している場合は多いようです。
(ただし、ターゲットの人の頭の中の認識の変化をアンケートなどで計測しようとしても回答者の主観となるため「参考程度」となり、正確な計測はできないと考えていた方が無難だと考えています。)
参考図書や参考記事のリンク
リモートUXブッククラブ(旧UXBC東東京) | Peatix
「本を読まない読書会」です。「Outcomes over output」を紹介いただき、ロジックモデルの概念を初めて知りました。
「プログラム評価ハンドブック」(山谷清志 監修、源由理子・大島巌 編著)
ロジックモデルについてネット上で検索しても、いろいろな内容がありすぎて混乱した中、わかりやすく整理がされていた本。定価:税込2860円で、この手の本ではお手軽価格。楽天やリアル本屋はまだ定価で買えるかもしれません。
ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則(ジム・コリンズ, 土方 奈美 訳)
デザインスプリントで「Outcome=行動変化」により議論が早くなった話。[speakerdeck]
ロジックモデルと、アウトプット・アウトカムをデザインスプリントに活かしたことについてプロダクトオーナー祭りでお話ししたスライドです。
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