みんなの目線が揃う。アウトプットとアウトカムの違いの理解【PdM連載:第1回】
はじめに
アディッシュでチャットボットのhitoboのプロダクトマネージャーをしているイケヤと申します。
過去には、漂流するアジャイル開発の経験や、チームメンバーの目線がうまく合わないなど、たくさんの苦労をしました。しかし、現在はプロダクトチームの全員がリモートワークのメンバーで構成されながらも一切そういった問題は起こっていません。
今後この記事の連載では主に、
に向けて、ゼロからプロダクト開発に携わる中でチームや個人として得た経験や知見を共有します。
特にチームで物事がクリアに進みやすくなった大きなきっかけは、関わるメンバー全員が、今回お話しする「アウトプットとアウトカム」を区別して会話ができるようになったことです。
よく聞くようになった「アウトカム」とは何か?
「アウトカム」という言葉は既にビジネス分野では一部浸透してきているため、プロダクトマネージャー、カスタマーサクセス、マーケターなどの職種の中級者以上の人は何の躊躇もなく、この言葉を使います。
でも、いきなり言われても理解するのにちょうどよい日本語がなく「んん?成果??」となり、アウトプットとの違いがよく分からない方も多いのではないかと思います。
Web検索して調べてみると、
などの説明が出てきます。
どちらも正しい説明ですが「結果なの?成果なの?」と、ぱっと見では理解しづらい面もあります。
チームメンバー内の認識を揃えるには、これらは言葉で理解しようとするよりも「図式化された構造がみんなの頭の中に入っている」ことの方が重要だったりします。
仕事のあらゆることはタコスか、サッカーで説明できると最近思い始めていますので、今回はタコスで説明します🌮
アウトプットとアウトカムの違いって?
まず、アウトプットとアウトカムをそれぞれ説明します。
◆アウトプットとは
インプットを何かに投じた結果が「アウトプット」です。何かとは組織、人、機械などです。
これを「おいしいタコスを作るプロジェクト」に置き換えると、以下となります。
◆アウトカムとは
「アウトプット」が外部の何かに影響を与え、その結果として引き起こされるのが「アウトカム」です。
あらゆる事業もプロダクトも、基本的には「対象の人に何らかの良い影響をもたらす」ことを目的に進められるため、影響を与える先の外部の何かは「人、集団、組織、社会」など、最終的には必ず「人」であると考えておくとよいです。
どのような事業やプロダクトであっても、狙っているアウトカムに対して最大の影響を与えることを目的として、本来のアウトプットは行われます。
これを「おいしいタコスを作って販売する」というプロジェクトに置き換えると以下となります。
アウトプットは「おいしいタコスを販売する」ですが、その先の結果として期待しているアウトカムは「リピーター増」となります。
「おいしいタコスを作ること」自体は非常には重要な要素ではありますが、おいしいタコスを作ったからと言って、リピーターがたくさん増えることは確約されていません。
出店先のエリア、宣伝方法、価格、店舗の雰囲気、競合店など、あらゆる要素が影響し合います。
アウトカムの難しい点
アウトカムの難しい点は直接コントロールができない点です。
◆アウトプットは直接コントロールできる
「アウトプット」は自分たちが出す、直接の結果としてコントロールができる領域です。
◆アウトカムは直接コントロールできない
一方で「アウトカム」の難しい点は直接のコントロールができない点です。アウトプットの影響から「結果として引き起こされる状態」がアウトカムだからです。
以下の例の通り、アウトカムについてはアウトプットの結果として引き起こされることを期待するものですが、期待通りのアウトカムとなるかはアウトプットを出しただけでは確約されません。
アウトプットがアウトカムにちゃんと影響を与えることができたかどうかは、対象の人の行動変化を観察をすることや、なんらかの変化の推移についての情報のフィードバックを得ることで確認します。
より良いアウトカムを得るには、アウトプットを改善したり、アウトプットするもの自体を変更することも必要となります。
以上が、アウトプットとアウトカムの違いの基本的な説明です。
なぜ、アウトプットとアウトカムを全員が区別して話せる必要があるか?
「自分はもっとアウトプットを増やさなきゃな―」はよく聞くセリフです。例えば、社内のチームが生み出すものはアウトプットですし、各職種のメンバー本人の仕事(=活動)はそのチームのアウトプットに向かって進められます。
例えば、1週間単位のスプリントでプロダクト開発をしている場合、スプリントで終わらせる対象は「機能開発」というアウトプットです。
スプリントは集中して取り組むことが重要ですが、十分に注意しないと、自分たちの目の前に見えるたくさんの仕事(=機能開発)を終わらせることだけが、プロダクトチームがやるべきことのすべてであるとも錯覚しやすくなります。
しかしながら、
これらは期待するアウトカムから逆算して決定すべき事柄となります。
そして、それ以前にアウトカムの仮説が言語化されていてメンバー間で認識を一致させられていることが重要です。
プロダクトが何を目指し、顧客やユーザーにどんな行動変化(=アウトカム)が起こることが、顧客やユーザーのより良い状態(=顧客の成功:カスタマーサクセス)に近づいていくのか?
プロダクトのビジョンとして目指している状態を構成するアウトカムには何があるのか?
どのアウトカムに対して、どんなアウトプットが最も影響を出せることが期待できそうか?
これらの仮説をチームメンバー内ではっきりと言語化できていることで、チームがどこへ向かっているのか?個々のアウトプットはうまくいっているのか、いっていないのか?の議論がスムーズとなります。
引き起こそうとしているアウトカムと、それを引き起こすためのアウトプットを区別できていること。また、進めようとしているアウトプットはどのアウトカムのためにやっているのか?
アウトプット-アウトカム間の「つながり」について、メンバー全員の認識を一致させ続ける可視化やコミュニケーションが重要となります。
<参考>アウトプットとアウトカムのつながりが見えていなかった弊害の例
プロダクト開発に直接関わらない方でもイメージできるように、顧客接点に関わる業務において発生しやすい例を以下に挙げます。(※過去に自分自身もやってしまった、思い出すと、イタタ・・・となる例です。)
(例)その1:営業で目指すべき成果の認識における失敗
顧客/自社にとってのアウトカムは、顧客が製品・サービスを利用してうまくいくことで利用し続けていただき、それにより自社は毎月の売上が継続することであった。
しかし、営業担当者が目先の売上目標というアウトプットだけに固執してしまい、自社サービスの狙いと合っていないがために、すぐに解約となってしまう顧客からの受注を無理に進めてしまった。
(例)その2:お客様の要望のとらえ方における失敗
CS担当者が「強い顧客要望があった」として、機能の詳細の仕様が顧客により細かく指定された機能開発要望を出した。その後、アウトプットとしての機能開発は実現された。
しかし、その機能は仕様を指定した顧客も含め、どの顧客にもほとんど使われず、対象ユーザーの行動変化も起こせなかったためアウトカムに至らなかった。
次回:アウトプットとアウトカムのつながりをロジックモデルで可視化する
事業における「インプット→活動→アウトプット→アウトカム→インパクト(最終的に得たい大きな影響)」を明確に整理するためにロジックモデルという枠組みがあります。
ロジックモデルは、元々はソーシャルセクターやパブリックセクターでよく使われる枠組みですが、企業の利用に合わないわけではありません。
社会的インパクトほどの大きな影響を掲げる掲げないに関わらず、アウトプットとアウトカムの分解と言語化をする方法は、企業の事業活動にもそのまま役立てることができます。
企業の利用に際しては「社会的インパクト」を、対象としている市場全体における「顧客の成功=カスタマーサクセス」に置き換えるとチームの思考を整理しやすくなります。
最後に:参考図書や参考記事のリンク
デザインスプリントで「Outcome=行動変化」により議論が早くなった話。[speakerdeck]
ロジックモデルと、アウトプット・アウトカムをデザインスプリントに活かしたことについてプロダクトオーナー祭りでお話ししたスライドです。
Outcomes Over Output: Why customer behavior is the key metric for business success (English Edition)
LEAN UXの著者が書いた、アウトカムは顧客の行動変化でとらえた方が良いよという内容。79ページ程の薄い本。ロジックモデルの紹介があります。
未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則
東京大学産学協創推進本部 FoundX 馬田隆明さんの著書。ロジックモデルの紹介あり。
社会変革のためのシステム思考実践ガイド――共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する
線形のモデルとして認識することになるロジックモデルの弱点について言及があります。システム思考のアプローチで補完すべき点を知れます。(OKRなどもそうですが、直線的なロジックツリー状であることが、組織で認識を合わせるときの理解のしやすさにもなるため、使い分けだと考えています。)
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