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フェムテックの福利厚生「ルナルナ オフィス」が挑む「女性の健康」は、人事+経営の課題【株式会社LIFEM様】

アディッシュ公式noteでは、さまざまな業界で新しい視点の事業を推進するスタートアップ企業をご紹介しています。今回お話を伺ったのは、働く女性の健康課題改善から効果検証までを一気通貫でサポートする法人向けフェムテックサービス「ルナルナ オフィス」を提供する株式会社LIFEM(読み「ライフェム」、以下「LIFEM」)です。

「フェムテック」が流行語大賞にノミネートされるなど、にわかに注目を集める「女性の健康課題」。個々人によって症状に差もあり、女性同士であっても理解しづらかったり、知識不足などにより社会の理解が得られず、働きながらの対処が難しいなど様々な背景がある中で、ルナルナ オフィスは企業への福利厚生という形でその解決を目指しています。ルナルナ オフィスのサービス内容や、女性の健康課題の背景、企業がこの課題に取り組む意義などを、LIFEM取締役の平野祐さんに聞きました。


女性活躍をサポートする法人向けフェムテックサービス「ルナルナ オフィス」

── LIFEMの会社概要を教えてください。

LIFEMは、女性の健康情報サービス「ルナルナ」などを運営する株式会社エムティーアイ、そのグループ会社でルナルナと連携した産婦人科向けオンライン診療システム「ルナルナ オンライン診療」を運営する株式会社カラダメディカ、丸紅株式会社の3社の合弁会社として2022年に設立しました。ミッションに「働く女性の健康課題を改善し、誰もが働きやすい社会を実現する」を掲げ、後述する「ルナルナ オフィス」を運営しています。ちなみにLIFEMの代表は、カラダメディカの代表で現役の救急専門医でもある菅原誠太郎です。私はコンサルティング会社で地域医療連携ネットワークなどヘルスケア関連の事業などに携わった後、2020年にエムティーアイに入社しカラダメディカにてルナルナ オフィス事業の立ち上げに従事したのち、2022年にLIFEMの設立に伴いに取締役として参画しました。

── LIFEMが運営するルナルナ オフィスについて教えてください。

ルナルナ オフィスは、女性が入社からリタイアまで生き生きと働ける環境を目指し、ライフステージに合わせた様々な健康課題の改善を総合的に支援する法人向けフェムテックサービスです。カラダメディカが運営するルナルナ オンライン診療を企業向けにカスタマイズしたWEBサービスで、産婦人科の医師と患者となる企業の社員を繋ぎます。時々混同されてしまいますが、個人向けに女性の健康をサポートするルナルナとは異なるシステムです。

ルナルナ オフィスは、女性のライフステージ・健康課題ごとに3つのプログラムを用意しています。月経やPMSに関する不調の改善をサポートする「月経プログラム」、妊活や不妊に関する悩みを専門医に相談できる「妊活相談プログラム」、更年期症状に悩む方向けの「更年期プログラム」です。

といっても、社内の女性の健康課題を正確に把握しているケースは少ないので、導入企業にはまず、職場環境アセスメントを行う「ルナルナオフィス チェック」を実施し、その結果から最適なプログラムを提案するというケースもあります。

── 各プログラムではどのようなことをするのでしょうか。

オンライン診療を活用し、「月経プログラム」では、月経に伴う症状に苦しんでいる方に医師の判断のもと低用量ピルを処方します。「妊活相談プログラム」では、妊活や不妊治療のきっかけづくりや、セカンドオピニオンとして、専門の医師に相談ができます。パートナー同席の上、ふたり揃ってご相談いただくことも可能です。そして「更年期プログラム」では、症状がある方に医師の判断のもと漢方薬などを処方します。

またルナルナ オフィスでは、経営陣や男性管理職をはじめ、女性だけでなく社員全体を対象にした医師によるセミナーも実施しています。女性が自分の健康課題に目を向けるきっかけになり、さらに経営陣や管理職・男性からの理解を得られるような機会を提供し、企業全体のリテラシー向上に寄与します。セミナーに参加した男性からは「今後はパートナーにもう少し親切に接したいと思った」などのお声もいただいており、「誰もが働きやすい社会の実現」に少しずつ近づけていると実感しています。

人事だけでなく、経営マターとしての「女性の健康課題」

── ルナルナ オフィス提供の背景には、どんな課題が潜んでいるのでしょうか。

ルナルナ オフィスは、何かしら気になる症状があるにもかかわらず、婦人科にかかっていない女性が多いという問題を解決したいと考えています。そして、これには3つの背景があると考えています。

1点目にリテラシーの不足。女性自身が、そもそも自分の体が不調なのか、婦人科に行ったほうがいいのかといったことを把握していないというケースは珍しくありません。例えば、月経に伴う症状は、我慢するものや病気ではないと考え適切な治療があることを知らないケースや「ピルは怖いもの」と誤った捉え方をしている方もいます。加えて、周囲の目を気が気になって婦人科に行きづらいという心理的なハードルもあります。男性・社会全体のリテラシー不足も同じく問題でしょう。2つ目に、通院の負担。女性の健康課題に関する薬の処方が必要な場合が定期的に通院しなければなりませんが、混雑しているため、定期的な受診の時間が取れず通院が難しい方や、職場や家の近くに通える婦人科が少ないといった課題があります。そのため、働きながら定期的な受診の時間を取れず通えていない人が多くいらっしゃいます。3点目に費用負担です。一般的に月経も更年期も月々数千円ほどの治療費がかかってしまい、ハードルになっている方が多くいらっしゃいます。

以上のような課題を解決するのが、ルナルナ オフィスです。企業が情報を発信することで全社的なリテラシーを底上げし、オンライン診療の活用によって15分程度の短時間での受診を可能にしました。また、費用対効果を示すことで法人が費用を負担し、個人の費用負担が少なくなります。

── なぜ今、企業が女性の健康課題に注目すべきなのでしょうか。

結論から言うと「働く女性の健康課題について取り組むことが、企業価値を高めることに繋がる他、優秀な人材の獲得にも繋がることが期待されるから」です。男性にも、男性ホルモンが落ち込む男性更年期といった男性特有の健康課題はありますが、働き世代の女性は、女性ホルモンの変動によってライフステージ毎に様々な不調が起こりやすい傾向にあり、仕事のパフォ―マンスや長期的なキャリアなどにも影響を及ぼしています。女性の健康課題については、公平性の観点でも女性の活躍する環境を整備する必要があると思いますし、それが結果として企業にとっても価値に繋がるため、企業は女性の健康課題に注目するべきなのです。

実際、月経、妊活・不妊治療、更年期といった女性の健康課題に適切に対処できれば、年間約2兆円の経済効果が生まれると経産省は試算しています(取材後の2024年2月に発表された経済産業省の「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」では3.4兆円と推計された)。先述したルナルナオフィス チェックで蓄積したデータを分析したところ、7割以上の女性が月経・PMS、妊活・不妊治療、更年期症状で、何らかの健康課題が仕事へ影響があると答えています。にもかかわらず、婦人科に行くという選択肢をしている方々は23.1%しかいません。こういった状況を企業がサポートすることが働く女性の活躍につながり、結果的に会社のパフォーマンスを上げることにも繋がります。

── 人事的な観点からも、女性の健康課題には取り組むべきなんですね。

その通りです。加えて女性の健康は、2つの観点から「経営課題」としても取り組む必要性が高まっています。

1点目に、人的資本開示の観点です。近年、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されると共に、機関投資家が企業を長期的な投資対象として評価する際、女性の活躍やDE&Iといった項目を考慮するケースが増えてきました。これらに対処できていなければ、長期的な成長が見込めないと判断され、結果として投資にも影響が出てくると考えています。

2点目は、女性の採用競争の観点です。生産年齢人口の減少に伴って女性や高齢者が重要な労働力となっており、女性も長く活躍できる労働環境の整備が求められてきています。今まではメタボ検診や喫煙対策などが中心となってきましたが、いずれも対象者の多くは男性です。つまり日本企業の健康施策は、これまでの男性正社員を前提した設計がされてきた側面があると考えています。一方で、今後女性が長く活躍していけるようにするためには、女性の健康課題に寄り添い女性の働きやすさを高めることが、女性の採用競争力強化に繋がると考えています。こういった点を改善していくことも、今後は重要な経営課題となってくるでしょう。

「こんなに多くの女性が悩んでいるのか」 レポートで驚く

── ルナルナ オフィスは、まずは実験的に導入する企業が多いのでしょうか。

創業当初は我々は実績もなかったのでまずは実証導入するケースが多かったのですが、最近は最初から本格導入するというケースが増えています。とはいえ1年間ほど実証導入してみて、2年目から本格的に導入するというパターンも少なくありませんね。

── 企業はルナルナ オフィス導入の成果をどのように知るのでしょうか。

ルナルナ オフィスは企業からお金をいただき、従業員が利用するBtoBtoE(Employee)のビジネスモデルなので、導入企業に投資対効果を感じていただかないと取り組みが持続しません。そこでLIFEMでは、実際にプログラムを利用した方が、症状は改善したのか、症状の改善に伴ってパフォーマンスも向上したのか、それを金額換算するとどの程度になるのかといったことをまとめレポートにして企業に報告しています。

── 実証導入を経て本導入になるということは、1年間で決裁者を説得できるほどのデータが出てくるということですね。

その通りです。健康経営に取り組んでいる企業では、成果を数値で示しづらいケースが少なくないようです。一方でルナルナ オフィスは、以下の理由から、しっかり数値で結果を示せていると思います。

1つ目に、必要な方に我々のサービスが届きやすいこと。例えば、多くの企業が取り組んでいる禁煙対策ですが、本人が喫煙をやめたくないため、禁煙施策を届けることが難しいというケースを耳にします。一方で、月経痛などの女性の健康課題は本人も悩んでおり、まだ企業としての対策も進んでいないため、支援が必要な方に我々のサービスが届きやすいです。2つ目に、1年あれば成果が出やすいこと。低用量ピルを服用すると、多くの方は1カ月程度で効果が出始め、3カ月程度で副作用も安定し、6カ月もすると効果が安定してくると言われています。

ある製造業の大手企業の事例では、ルナルナ オフィスの導入以前には「横になって休息したい・1日中寝込むほど生活に支障がある」ほど月経の症状が出ていると回答した方の割合は75%、同じく更年期の割合は10.5%でした。それがサービスを導入後はそれぞれ7.1%、6.3%に大きく減少しています。もちろん成果は企業によって異なりますが、大きく変わらない程度の結果が出ています。

またある会社では、月経だけで年間約4億円の労働損失が出ていると試算しました。症状が出ている日数や辛いときのパフォーマンスの低下がサービス導入後にどうなったかといったことも定量・定性的に把握し、「これだけのパフォーマンスが出るならこれくらいのコストはかけてもいい」と判断できるように、レポーティングしています。

他にも、業務パフォーマンスへの影響がどの程度の金額的影響になっているのか、期待値や満足度、逆に「オンライン診療は大丈夫なのか」「副作用が怖い」と感じていた方の不安感が払拭されたかといった項目をレポーティングしています。ちなみにフリーコメントには「この制度を導入してくれてありがたい」といった感謝が綴られることが度々ありそれを企業にお伝えするのですが、どうやら人事の方々は普段は苦情を受け付ける機会も多いそうで、感謝の声には喜ばれる方が多いですね(笑)。

── こういったレポートを見た企業は、どういった反応を示すことが多いのでしょうか。

先述したように、希望された企業に対しては導入の段階で女性社員・男性社員全員にアセスメントを実施するのですが、その回答を見た時点で「こんなに多くの女性が悩んでいるのか」と驚く方は少なくありません。この段階で「ルナルナ オフィスを導入したら、このくらいの効果が出るはずです」というお話をして、実際にレポーティングして効果を実感していただき、また従業員からも「QOL向上に繋がった」「会社からのフォローがありとても安心して試すことができた」「会社が好きになった」といった声も寄せられ、改めて喜んでいただけるということが多いですね。

先進的大企業への導入から、社会全体への普及フェーズへ

── ルナルナ オフィスを導入する会社は、どのようなきっかけで導入に至るのでしょうか。

会社によってマチマチです。例えば女性社員が多い企業では、彼女らの活躍が企業の元気に直結するということで導入いただきました。逆にこれまで男性社員の割合が多かったが、女性社員の採用に力を入れようとしている企業では、カルチャーの変革が必要で、その一環として導入したいとお声かけいただきました。また工場で働く女性社員が多い企業では、立ち仕事で体の負担が大きかったり、シフト制で休む時間をとりづらかったりと月経関連の悩みが少なくなく、そういった負担の改善しようと導入に至っています。

各社各様の事情で、お声かけいただいていますし、同業他社の取り組みや国からの号令が後押しする面もあるでしょう。とはいえ、女性の健康課題に積極的に取り組む企業はまだまだ少ないですが、あと数年してサポートすることが当たり前になってきたなってきたタイミングで、一気に社会の流れが変わっていくのではないかと思います。

── 最後に、今後の中長期的な展望を教えてください。

LIFEMでは、2024年の3月より男性更年期に関する実証も始めました。ルナルナ オフィスは女性のためのプログラムとして展開してきましたが、LIFEMが目指す「誰もが働きやすい社会の実現」のため、今後は男性の健康課題にも寄り添っていきたいと考えています。

またルナルナ オフィスは現在、月経・妊活/不妊・更年期を取り扱っていますが、女性の健康課題はこれだけに留まりません。他の領域のサポートも増やし、女性のライフステージ全体をカバーできるようにしていきたいです。

さらに、今後ルナルナ オフィスは、色々な企業と連携していきたいと考えています。既にあすか製薬株式会社とは女性の健康課題に関するリテラシーを企業全体で高めるためのコンテンツの共同制作等に関する包括提携をさせていただいています。我々単独ではできないことについては他の企業との連携をし、女性の健康課題や、それに伴う企業側の課題に対して解決に向けたサポートをより充実させていきたいです。

2021年に「フェムテック」という単語が流行語大賞にノミネートされましたが、単なる流行で終わらせることなく、女性の健康に対する取り組みを日本社会に根付かせていきたいとLIFEMは強く考えています。実際、我々の事業は先進的な大企業から導入が始まったものの、現在は他の大企業や中堅企業にも少しずつ広がりを見せています。中長期的にはこの裾野をもっと広げていきたいですね。

── アディッシュもLIFEMの活動を応援しています。平野さん、本日はありがとうございました。 

※記事中の画像はすべてLIFEM様の提供です。
(取材協力:pilot boat)