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デジタルウェルビーイングの重要性とこれから

「デジタルウェルビーイング」という概念についてご存知でしょうか。広くスマートフォン(スマホ)が普及しIoT(Internet of Things)製品が人々の生活に入り込んでいる現代において、デジタルウェルビーイングはデジタルデバイスと人との関係性について考える重要な概念です。今日はデジタルウェルビーイングの定義や注目される背景を整理するとともに、先進企業の取り組みを参考に今後について考えていきます。

デジタルウェルビーイングとは

ここ数年、IT業界を中心に「デジタルウェルビーイング」という概念への関心が高まっています。これはテクノロジーやそれを用いるデジタルデバイスを意味する「デジタル(digital)」と心身と社会的な健康を意味する概念であり、満足した生活を送れる状態、多面的な幸福を指す「ウェルビーイング(Well-being)」を掛け合わせてできた言葉です。テクノロジーのメリットを享受しながらもデジタル機器に人間が翻弄されず健全な日常生活のバランスを取ることを目指す取り組み、あるいはコンセプトそのものを指します。

2018年5月にGoogle社が開発者向けカンファレンス「Google I/O」で提唱したのをきっかけに世に広まりました。

社会に浸透しつつあるデジタルウェルビーイング

「デジタルウェルビーイング」が生まれた背景には、進化するデジタルデバイスと人間との関係性の劇的な変化があります。

 いまやデジタルデバイスは利用者の目的を叶える「手段・道具」にとどまりません。社会や人と繋がり、情報収集し、何かを伝えると言う場面で利用されますが、使うこと自体が習慣化しつつあります。しかし、こうしたスマホ依存や使い過ぎは利用者の「ウェルビーイング」を脅かしています。以下のような具体例が挙げられますが、思い当たる節があるという人は少なくないのではないでしょうか。

・デジタルデバイスを長時間使用することによる身体への負担
スマホの操作姿勢を長時間続けることはストレートネックの原因となり、首や肩の痛みにつながります。他にも眼精疲労や、スマホを見ながらの就寝で睡眠の質が低下するなど健康面で大きな悪影響を及ぼします。
・スマホ中毒が引き起こす注意欠陥状態
社会問題化した『歩きスマホ』がまさにその状態と言えるのですが、スマホに集中しすぎると周囲への注意や関心が薄れ、一時的に耳が聞こえなくなってしまう場合があります。また、着信音やバイブレーションなどのデジタルの刺激を頻繁に受けることも注意欠陥を助長する可能性があると指摘されています。
・マルチタスクやプッシュ通知による集中力の低下
一人で複数のデバイスを使いこなし、アプリや画面を切り替えながらマルチタスクで操作することは集中力の低下を誘引すると言われます。こうした状態でさらにアプリからのプッシュ通知などが気になり、思うように仕事が進まないと悩む人も多いでしょう。
・常に誰かの活動と繋がることによるプレッシャー
ビジネスチャットやSNSは情報収集や相互理解においてとても便利なツールです。しかし誰かの活動とつながることは、プレッシャーや緊張感と表裏一体だと言えます。人や状況によっては、繋がっている状態そのものがストレスとなって不安などの鬱状態を生み出しかねないのです。

このようにデジタルデバイスに気を取られ、時間を費やすことで、さまざまな不調やストレスが生まれるため、世界中でデジタルウェルビーイングへの関心が高まっています。アメリカの大企業やテックコミュニティなどでは、スマホなどのデジタルデバイスを使用する時間を「有意義な時間(TWS:Time Well Spent)」にすることも関心の高いテーマとして浸透しつつあるのです。

GoogleやAppleはスマートフォンにデジタルウェルビーイングの機能を搭載

いち早くデジタルウェルビーイングを提唱したGoogle社は、デバイスを使用する時間をコントロールしてより大事なことに集中できるよう、2018年11月20日にスマホ中毒防止アプリ「Digital Wellbeing」を正式リリースしました。これはアプリの起動回数や利用時間、ロックの解除数などをダッシュボードで可視化するため、利用者自身が利用傾向やスマホとの関係性を把握する助けとなります。また1日の利用時間の上限をアプリごとに設定することも可能で、「Android 9.0」以降を搭載するすべてのGoogle Pixel端末とAndroid One端末で利用できます。

 さらにGoogle社がAndroid端末メーカーに提供する「Google Mobile Service(GMS)」のライセンスを受けるAndroid 9以降を搭載する端末では、同社が提供する「Digital Wellbeing」ツール、もしくは同等の機能を有する独自アプリを搭載することが義務付けられています。

 Apple社もiOS 12からは「スクリーンタイム」と言う同様の機能を提供しています。スクリーンタイムでは、アプリやWeb サイトなどにどの程度の時間を費やしているか、デバイスを立ち上げた回数や通知の受け取り回数等を把握することができます。これらの情報を自分やデバイスを共有する家族とデバイスとの関係性を考える材料とし、必要に応じて制限を設けることができるのです。

デジタルウェルビーイングに注力する先進企業

デジタルウェルビーイングはもともとIT業界を中心に広まった概念ですが、利用者の日常に身近なテーマとして注力する先進企業も出てきています。

ーRoblox
 Robloxとは子どもたちに人気のオンラインゲームプラットフォームです。2020年は新型コロナ流行で巣ごもり需要が増したことも追い風となり、日間アクセスユーザー数は前年比倍増と急成長。2021年早々に上場予定という勢いのある企業の一つです。

 Robloxでは自社コラムでデジタルウェルビーイングのカテゴリーを設け、関連するコンテンツを多数発表しています。これは主なユーザーが12歳以下と幼いことと関連しているのでしょう。デジタルウェルビーイングの中でも、ゲームのやりすぎやゲーム内でのトラブルといった課題に密接に関係する内容について多くの情報を提供しています。

 ーTikTok
 若年層を中心にユーザーが多いモバイル向けショートビデオのプラットフォーム TikTokもウェルビーイングをスタートしている企業の一つです。TikTokは2020年12月15日(米国時間)に嫌がらせ、危険行為、自傷行為、暴力などの分野における既存方針を強化するコミュニティガイドラインの拡張と、ユーザーのウェルビーイングに焦点を当てた4つの新機能導入を発表しました。

 自傷行為や自殺念慮に苦しむ人々に緊急時のサポート団体へのアクセス情報だけでなく改善のため専門家の協力下で作られた情報を提供する機能や、痛ましいコンテンツを隠すためのオプトイン表示画面などがその一部です。TikTok社はコミュニティの安全性を保つことを常に意識すべき最重要事項として取り組んでいることを明示しています。

デジタルウェルビーイングのこれから

このように、デジタルウェルビーイングというと現状ではスマホの使いすぎという観点からハードを軸にした取り組みがメインです。しかし今後は利用の実態を掘り下げ、個々のサービスの性質に見合うデジタルウェルビーイングのあり方が研究されていくのではないでしょうか。特にデジタルに関わるtoCサービスを提供する企業にとっては不可避のテーマだと考えられます。

 たとえば、いまやテレビに変わり若者に人気の動画サービス。ハマりすぎると長時間視聴・配信をし続けてしまうという問題が考えられますが、リスクはそれだけではありません。動画配信することで誹謗中傷を受けてしまうかもしれないし、逆に故意か否かにかかわらず誰かを傷つけ死に至らしめてしまうかもしれないのです。実際にこうしたネットトラブルは著名人に限らず、匿名の個人間でも起きています。そのため事業者は単にサービスを通してユーザーを満足させるだけでなく、こういった負の面にも目を向けてユーザーのウェルビーイング実現に取り組むべきでしょう。

 なぜなら消費者は、社会的課題に向き合い信念に基づく行動を取る企業を信頼し応援するからです。消費者が自分でさまざまな情報を取捨選択できる現代において、選ばれるのは自身の価値観にフィットする企業の取り組みや社会的意義がある活動です。短期的なサービス改善にとどまらず、デジタルウェルビーイングという大きな視点でユーザーを守り、あるべき姿を追求することは、事業価値を高めることにつながるはずです。

 テクノロジーの進歩に伴い、今後はより多くの人にとってデジタルウェルビーイングが身近なテーマとなるでしょう。デバイスの利用場面も変化を続け、今までにない幅広い事業者による取り組みが加速していくに違いありません。

 アディッシュでは生徒に対してネットいじめ対策やネットリテラシー講座を提供しております。またスマホの良さは認めつつ、使いすぎや出会いのリスクなどとどう向き合っていくべきか、まさにデジタルウェルビーイングに関する議論を続けながら事業を進めてまいりました。toCサービスを提供される企業様において、どのようにデジタルウェルビーイングを取り組んでいくか悩まれていらっしゃるかもしれませんが、ぜひ一緒に考えていけたらと思っておりますので、お気軽にご相談ください。

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