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スタートアップの未来を切り拓くマーケティング組織の作り方 [adishラジオトーク]

マーケティングに長らく従事してきた吉澤・小原(おはら)・近内(こんない)がスタートアップ期のマーケティングに関する様々な課題について議論するシリーズ。今回のテーマは、「スタートアップにおけるマーケティング組織化の秘訣」です。スタートアップの急成長を支えるマーケティング組織をどのように築いたら良いか?具体的な手法やタイミング、組織化に伴う課題と解決法について語ります。

マーケティング組織の土台を築く方法

吉澤:今回のテーマは、「スタートアップがマーケティングを組織化する秘訣」です。皆さまには、これまでの経験を踏まえてお話をしていただきます。まずは、近内さんお願いします。

近内:トップバッターですね!私のこれまでの経験を踏まえると、マーケティングの組織化はいくつかのフェーズに分けることができるのではないかと考えています。仮に2つに分けるとしたら次のようになるのではないでしょうか。

第一フェーズは、マーケティングの土台を作る時期です。
集客から受注までのプロセスをフラットに考えられる人を中心にマーケティングの組織を作り、集客〜受注までの仕組みを作りあげます。マーケティングの各領域の専門性があるに越したことはないですが、それ以上に集客~受注までのプロセスを見通せることが重要なように思えます。

第二フェーズは、これまでよりももう一段階高い成長曲線を求められる時期です。そのタイミングでマーケティング各領域のスペシャリストを採用し、一つ一つの施策や仕組みをブラッシュアップしていくことで次の成長曲線を描きやすくなる可能性が高まると考えています。

吉澤:なるほど、確かに。もうちょっと掘り下げたいのですが、一旦お一人ずつお話しいただきます。次は小原さんです。

小原:はい。スタートアップ企業がマーケティングの組織化を本格的に考えるフェーズとは、サービスがプロダクト・マーケット・フィット(PMF)している状態で、さらに資金調達をして大きく成長しなければならないという時期ですよね。

資金調達をすると、予算配分の仕方も難しくなってきます。展示会などのイベントの準備やクリエイティブの制作など大規模なマーケティング施策を実施しながら、利益を追求しなければならない。まずは、そこをやり切る「熱意」が組織に必要です。多くの施策を実施するなかで、「この集客チャネルは効果的だ」とわかるタイミングが訪れます。そのタイミングでオペレーションを整え、施策の改善ができる組織作りにシフトしていく。その上で、新しい集客チャネルを開拓しつつ効果の高い既存のチャネルをしっかり運用していくという形が良いと思います。

情熱のCMOと堅実なオペレーション(Ops)軍団

吉澤:ありがとうございます。僕もお二方とほぼ同じ意見ですが、補足として「熱意」と「Ops(オプス)※1」のさじ加減という問題について触れたいと思います。

マーケティング組織が大きくなると、熱意だけではなくオペレーションが重要となるフェーズが訪れます。オペレーションできる人が熱意を持っているかというと、必ずしもそうじゃないこともあります。そうなると、熱意とオペレーションのどちらを優先するのかという問題が結構な頻度で出てきます。

僕の考えとしては、まずリーダー以上は熱意を持つことが絶対に必要です。
オペレーション担当に関しては、オペレーションスキルを重視して運用できる人を採用します
。例えば、業務委託でも良いと思います。幹となる熱意のCMOと、徹底的なオペレーション。この両軸をしっかり持つと、展示会やカンファレンス、ウェビナー、ウェブサイト等、各施策の専門性を高めていけると思います。

近内:そのような側面はあると思います。自分の失敗談になりますが、熱意とロジックだけで突っ走ってしまってオペレーションの整備をないがしろにしたまま業務を進めてしまった経験があります。のちに「よしここでアクセルを踏むぞ」というタイミングで社内がうまく噛み合わず、機会を逃してしまったことがありました。オペレーション作りも、完璧ではなくて良いので同時に進めることで後々の機会ロスを防ぐことができると思います。

※1 Ops(オプス):組織の円滑な運営と生産性向上を目的に、高度なオペレーション構築や仕組み作りに従事する役割または組織のこと。

プロダクト・マーケット・フィットとの関係

吉澤:では、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)との関係はどうですか。

小原:PMFと、マーケティング組織化のタイミングですね。PMFが近づくと、日々の業務が膨大になりとにかく人が足りないというフェーズに入ってきますよね。

吉澤:わかります。僕の理想のタイミングは、PMFする直前です。そろそろ来るんじゃないかという肌感覚をいかに掴むか。PMFしてから組織化するのでは遅いじゃないですか。

小原:ただ、大規模な資金調達をしたからこそ採用を加速できる面はありますよね。一方でキャッシュフローの問題もあります。

吉澤:CMOやCOOは、そのタイミングで投入するのが理想なんですかね。

近内:CMOやCOOを置くタイミングは、必ずしも「このタイミングが良い」というのはないと思います。ただ、「アクセル踏むぞ」というタイミングが見えてきたら、CMOを将来担ってくれそうな方を採用する。また、同時に今いるメンバーでできる範囲でオペレーションの整備を大筋しておいた方が良いと思います。

CxOが組織を作るのか、組織がCxOを育成するのか

吉澤:僕の経験では、スタートアップの代表者はCxO※2クラスの人材をまず採用したいという方が多いです。ただ、現場でチームを作ってからCxOを採用するのか、最初にCxOを採用して組織を作っていくのか。どちらが良いのでしょうか?

小原:先にCxOを採用した方がラクですよね。先の見通しができますよね。

近内: CxOのバックグラウンドによると思います。フェーズによって特に求められる要素は変わってくるので。

もちろん全体を描ける人も大事ですが、スタートアップ期は自らも手を動かさないといけないフェーズです。いきなりCxOを採用するより、候補になりうる人にまずは入ってもらうのも手ではないでしょうか。直近の運用も回せますし、組織の成長に合わせて全体の設計もできるCxO人材が育ちやすいのではないかと思います。

吉澤:そこはありますね。一方で外資系のスタートアップでは、先にCxOを採用してから組織を作る傾向があります。その理由は、マーケティングリーダーが幹となって組織と考え方をつくり、そこから枝分かれして組織や施策を拡大していくという考え方をするからです。

ただ、日本のボトムアップ型もすごく良いと思います。どちらの形も良さがあるので、日本のカルチャーに合わせるならボトムアップが良いのかもしれませんね。

近内:組織のフェーズにもよりますがCxOを採用する場合は、しばらくは現場で手を動かすことも厭わないスタンスの方がより良いかもしれませんね。

吉澤:CxOが先か、組織が先か。組織のカルチャーやCxOのバックグラウンド次第で変わってくるという結論ですね。

※2 CEO,COO,CMOなど、特定領域におけるスペシャリストでChier~officerと称される最高執行責任者の総称

マンパワー不足は必ず訪れる。マーケ人材の採用は必須

近内:以前、小原さんは外資系企業が日本法人を作って日本市場を開拓するというタイミングで関わられていましたよね。まさにPMFの時期にあたると思うのですが、その際はどうされていましたか?

小原:ずっとマーケティングをやっていました。全くゼロの状態から顧客数が増えるタイミングまで関わっていました。

吉澤:顧客数が増えると、どんな課題が出てきますか?

小原:既存の集客チャネルに限界が訪れ、成長率が伸び悩みはじめました。新しい施策が必要になるとともに、マンパワー不足も感じていました。そこが一番人を必要とするタイミングでしたね。

吉澤:まさに今、僕も小原さんと同じようなことをやっています。最初は僕のコネクションで市場を開拓していきますが、しばらくするとサービスのイノベーター(革新者)※3のリードが枯れてきます。そこでマーケティング予算を確保してイベントや展示会に出て、サービスの認知を獲得していく。その次は、SQL(Sales Qualified Lead)やMQL(Marketing Qualified Lead)といった見込み顧客のファネル管理の課題が出てきます。いよいよ人が必要になってくるというタイミングを読むのは、なかなか難しいですよね。

小原:中期的な拡大計画を描くと同時に、採用計画にしっかり落とし込むことが必要です。差し迫った状態で採用しようとしても、すぐに良い人材を確保できるとは限りませんから。採用の優先順位もきちんと考えた方が良いですね。

※3 イノベーター(革新者):「イノベーター理論」の5つのユーザー層の中で、最初期に製品・サービスを採用・導入するユーザー。

獲得したリードの育成方法

吉澤:少し話を変えます。イベントや展示会で獲得したリードがSQL化や案件化に繋がらないなど、よくある課題を教えてください。

近内:自分がこれまで関わってきた複数のベンチャー企業は、キャズムを超えてはいないが市場が出来上がりつつあり、ある程度PMFしている状態でした。そのため、イベント後は商談につながりやすい状態で、イベントや共催セミナーで獲得したリードの商談化がしやすい時期ではありました。

あとは、リードからより確実に商談のプロセスを進めていくためにいかにボトルネックを解消していくかが課題でした。リードを獲得した後のフォローの仕組みを作り、数ヶ月後や半年後のクロージングができるようリードナーチャリングを適切に行うことを意識しました。

小原:以前関わっていたサービスはリードジェネレーションに強く、自社サービスのフリーミアム(Freemium)※4で獲得したリードにきちんとアプローチすることで受注につながる仕組みでした。

しかし、別チャネルからの集客がなかなか難しかったです。展示会やセミナーは即時案件化するというものではなかったため、効率があまり良くなくて注力できない状況でした。競合他社が出ているから自分達も出展するという感じです。リストが積み上がってからは、セミナーでリードを育成していました。

※4 フリーミアム(Freemium):サービスや製品の基本機能を無料で提供し、高度な機能や特別な機能は課金する仕組みのビジネスモデル。

属人的なオペレーションを脱する基本の一手とは

吉澤:イベントで獲得したリードの質と量は、サービスの種類にもよりますね。ソリューション型のサービスはリードタイムが長く、無料登録やアカウントがないと成約率が一見低くなりがちです。ちなみに、フリーミアムで登録した方は、既存顧客として定義するんですか?

小原:フリーミアムで獲得したリードの質は、それこそ多岐にわたります。純粋に興味を持って試してみたいという方、本格的に検討して試してすぐに課金する方、広告代理店さん、アフィリエイターさん、というふうな感じです。そこから先はヒアリングしないと分かりません。電話やメールでコンタクトを取って、反応が良ければ追いかけていくという感じです。

吉澤:フリーミアムで登録した方に、電話やメール・商談をして成約に結びつけるというわけですね。

小原:その通りです。

吉澤:運用は、組織化・ルール化していましたか? それとも、属人的ですか?

小原:割と属人的にやっていました。個人の知見やスキルに頼っていたので、そこが課題ではありました。

近内:属人的なオペレーションから抜け出すためには、再現性が高い運用ノウハウを棚卸して可視化・活用可能な状態にしていくことが大切ですよね。

吉澤:それは、マーケティングの組織化において最低限必須ですね。

小原:組織化の基本は、分業化していくことだと思います。最初は1人でやっていたことを切り出して、別の人に任せていく。それが運用化していく秘訣だと思います。

メンバーのキャリアと組織の方向性をすり合わせる

吉澤:BizDiv(事業開発)的なものというよりは、ルール化と専業化ですね。では、現場のモチベーションを保つにはどうしたら良いのでしょうか?ミッション・ビジョン・バリューがその役割を担うのでしょうか。

小原:ミッション・ビジョン・バリューだけではなく、現場の方の素質に合わせてポジションを定めることが重要です。一つの分野を極めることや、細やかな改善活動が好きな人は向いていると思います。ただ、分業化が進むにつれ、スタートアップから「会社っぽく」なる時に合わなくなる人も出てくるかもしれません。

吉澤:では、ある程度人が抜ける前提でオペレーション化する感じですか?

小原:経営陣からすると、立ち上げメンバーが抜けるのは寂しいです。ただ、その人のやりたいことに全てを合わせることはできません。会社の成長や顧客の課題解決が企業の存在目的なので、個人に寄り添いすぎるのも違いますよね。

近内:組織のフェーズによってメンバーの入れ替わりがあるのは、当たり前ともいえますが、会社の進む方向と本人の希望を擦り合わせて同じベクトルで進んでいけるように配慮していました。それこそ、毎週のようにメンバーと話し合いながら。

企業が成長し分業化が進む中で、「あなたにはここを任せるけれども、その過程で目指すキャリアを実現していこうよ」というスタンスです。

吉澤:なるべく意識のすり合わせをするということですね。

近内:本人の成長実感をしっかり生み出すことに、一番気を使っていたかもしれません。

吉澤:それこそ、マーケティング組織化・運用化の秘訣ですね。

近内:そうですね。それに再現性もありました。

吉澤:ただ、ミッション・ビジョン・バリューという、会社のあるべき姿が定まっている必要があると思うのですが。

近内:はい、それありきのやり方です。

吉澤:一方で、ミッション・ビジョン・バリューが定まっていない場合はこういう方法もあるのかもしれません。僕自身が関わった経験談になりますが、まだマーケティングに関する経験が浅い運用担当者には、とにかくPDCAと改善のサイクルを徹底するように伝えていました。クリエイティブの改善やA/Bテストなどで、改善のループを作るように、と。またマネージャーレベルには、もう少し大きな視点と中長期的な改善を心がけるように指示をしました。いずれにしても、改善のサイクルを整えることができればイカしたマーケターになることができ、社内でもどんどん重宝されていくし、その人自身の価値をあげることができる。その仕組みを伝えることで、本人のモチベーションを高めていく方法です。

まとめ:マーケティング組織化の秘訣と必要性

吉澤:では、今回のテーマのまとめです。改めて、「スタートアップにおけるマーケティング組織化の秘訣」をお聞かせください。

小原:分業化することは重要なのですが、一方で、オペレーションフローを徹底してしまうと、やることがガチガチに決められていて、担当者のモチベーションを失うリスクも考えられます。そのリスクを回避するためにも、担当者が自分で業務内容をコントロールできる余裕を残しておいた方が良いと思います。例えば、「あなたにはイベント全体をお任せします。その中で試行錯誤してください」という感じです。

吉澤:確かにおっしゃる通りです。マーケティングメンバーが、自分の裁量でできる部分を残すということですね。ガチガチに運用の仕方を決めるのではなく、ある程度余力を持たせて改善のサイクルの幅を持たせられるような部分をお任せする形ですね。

小原:それで難しい部分は相談してもらうと。

吉澤:確かにその形は良いですね。僕が関わっている企業では同じような指示を出しています。まだ経験が浅い現場の方々に、CRM担当、広告担当というように、あえてざっくりとした担当領域を任せています。全体の方針から大きく外れない限り、自分の業務領域を自分の裁量でやってもらう。PDCAを回しているうちに、何かしら反省点が見つかるはずなので、それを自分自身でフィードバックをして改善してもらう。これが、小原さんの「モチベーションを保ちつつ、オペレーションを回す秘訣」ということですね。

では、近内さんお願いします。

近内:マーケティングの組織化のポイントは3つあると思います。

1.冷静と情熱のあいだ
スタートアップに限った話ではないですが、実現したいこと、そのためにやりたいこと、やらなくてはならないことは本当に多いと思います。「熱意」をもってそれらを押し進めることが大切なのは間違いないこと。ただ、当然すべてができるわけではなく、体制やオペレーションを整えないとロスが出るのみでうまく進まないことも多いのではないでしょうか。「熱意」だけでは組織がまわることはありません。いかに「冷静」な視点でバランスをとれるかも重要になってきます。

2.メンバーが実現したいキャリアと、会社のミッション・ビジョン・バリューを擦り合わせる
組織の成長と人の成長は切っても切り離せません。組織の成長は人の成長によるもの、そして人の成長は組織の成長によるものという側面は確実にあります。そのため、組織のベクトルとメンバーのベクトルを合わせていくのは必要不可欠だと考えています。自分はよく漫画「ワンピース」の話に例えるのですが、海賊王になりたいルフィの船(会社)に乗って船員のあなたはどうなりたいか?ということですね。

3.分業体制のあり方
分業自体は必要な手段ではありますが、分業のやり方によっては害が多い場合もあります。フェーズに合わせて分業の範囲をチューニングしたり、切り口を変えたりする必要があります。そして業務内容をガチガチに固めるのではなく、本人や部門などの裁量に任せるファジーな部分を残しておくことも大切ではないでしょうか。ガチガチにしすぎてうまくいかないケースも多く見受けられます。

吉澤:お2人のおっしゃる通りです。うまくまとめていただき、ありがとうございます。

近内さんと小原さんが共通していたポイントで、
・裁量を与えて、改善サイクルを回す余力を持たせる
・その上で大きなマーケティングファネルをしっかり組み立てる
・ある程度自由にやってもらう

という点は同感です。

僕は、マーケットとマーケティング組織は一体だと感じています。仕組み化して拡大することで認知を得て、マーケットから評価され始める。その際に得られるマーケットの声は非常に重要です。マーケットの声をプロダクトと営業のセールストークに反映し、形にしていく際の集結点がマーケティング組織です。組織化するときにそういうところまで設計できると良いですね。役員・経営者主体ではなくマーケティングが主体になることで、サービスの拡大につながります。

PMFの時点では、そうなるべきだと思います。いかにマーケティング組織がビジネスの全ての軸になるよう方向転換できるか、が会社全体として求められると思います。

近内:マーケティング=広告と思っている方も多いですが、実は企業活動全てを包括するのがマーケティングだということですよね。

吉澤:全てに影響しますよね。例えば、お客様のフィードバックをカスタマーサクセスから吸い上げて、Webサイトやサービスに反映する。そういう時にマーケティング組織が必要ですし、マーケティングをやるべき理由だと思います。

というわけで、本日はありがとうございました。
また次回、よろしくお願いいたします。

近内・小原:よろしくお願いします!


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