山口真一准教授 インタビュー全文「誹謗中傷に隠された、歪んだ正義の実態」
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山口真一准教授 インタビュー全文「誹謗中傷に隠された、歪んだ正義の実態」

この記事は、adishが発行したホワイトペーパー「matteレポート vol.02 誹謗中傷に隠された、歪んだ正義の実態」の内容を掲載しています。ご興味ある方はこちらからダウンロードください。

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ネット上にはびこる誹謗中傷。その課題の本質を探るべく、今回matteレポートではネット中傷者の生態について深く迫ることにした。彼らはなぜネット上で人を攻撃するのか。どんな人たちが攻撃に参加してしまうのか。インタビューには、ネット炎上に関する著書を多数出版している山口真一准教授が登場。攻撃の根底にある「正義を振りかざす」行動とはどういうことなのか?その心理構造とは?健全なネットコミュニティ社会を築くためのヒントを読み解いていこう。

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トラブルの原因は「正義感」が影響

吉澤|本日はよろしくお願いいたします。私たちはmatteというプロダクトを通じて、誹謗中傷のない、健全なコミュニティ運営ができる世界を目指そうとしています。そこで今回山口先生と、誹謗中傷をしてしまう人、あるいはそれを繰り返す人は、なぜそうした行動をとってしまうのか。その心理構造の正体について迫っていければと思っています。

山口|はい、よろしくお願いいたします。

吉澤|まずはじめに、先生の著書では、誹謗中傷をする人の大半が、自らの正義を振りかざしている、ということに言及されていましたが、このあたりを詳しく聞かせてください。

山口|はい。私が以前調査したところによると、炎上に参加している人の60〜70%が、「こういうことを言っていて許せなかったから」という風に、自らの正義感によって攻撃を仕掛けている、ということが分かったんです。ここでいう正義感というのは社会的な正義ではなく、あくまで個人が各々の価値観によって持っている正義です。当然そうなると、正義の定義も人によってバラバラなわけです。彼らが思い思いに自らの正義を振りかざし、攻撃を加えている状態、これが「炎上」の最たる例です。

吉澤|なるほど。自分の中の凝り固まった正義感が誹謗中傷に変わってしまっているわけですね。

山口|そういった書き込みをしている人たちって、ネット上にどれくらいいると思いますか?

吉澤|結構たくさんいる気がしますね。全体の1割とかですか?

山口|以前私が調査した結果だと、大体炎上1件につき、0.0015%だったんです。

吉澤|そんなに低いんですか。驚きですね。

山口|人数に置き換えると、7万人に1人くらいですね。ものすごく少ないように聞こえますけど、ネットユーザーが例えば7000万人いるとしたら、その中の1000人くらいは炎上コメントを投稿しているわけです。

吉澤|なるほど。多くはないですが、決して無視はできない数字ですね。

山口|それに、同じ人が複数のアカウントを持って攻撃しているというパターンもあります。例えば、サイエンスライターの片瀬さんが誹謗中傷を受けて起こした裁判の事例では、損賠賠償請求をされた男性は、200以上のアカウントを作って、片瀬さんに攻撃を仕掛けているというのが分かったんです。

吉澤|200ですか・・・もはやストーキングですね。

山口|そうですね。その男性は、彼女を追い詰めることが正しいと思ってやっている。その結果として、多数のアカウントを作ってバッシングを続けていたんです。

吉澤|そういう事例は他にもたくさんありそうですね。

山口|はい。実際に私の研究において、過去に炎上に参加した人に、最大何回書き込んだかという調査をしたんですが、大半の人は1〜3回くらいなんです。つまり、ちょっとイラっとして書き込んだ、と。これはまあわかるとして、一方で、全体の約3%の人たちは、50回以上書き込んでいるということが分かったんです。中野信子さんは、それを正義中毒という言葉を使って表現していますが、まさにそういう状態ですよね。

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吉澤|一部の人が書いているとはいえ、ネット上では個人をユニークで特定しにくいですからね。まるでたくさんの人が書き込んでいるように見えますね。

山口|はい。実はごく一部の人が書き込んでいるわけなんですが、ネット上だとそれがものすごく多く、まるで世間一般の声のように捉えられてしまうという側面があります。

ネット中傷者の特徴

吉澤|誹謗中傷の投稿をしてしまう人って、どんな人たちが多いのでしょうか?

山口|分析して分かったことは色々あります。統計的に多かったのは、男性で、年収はそれなりに高く、主任・係長以上の役職者です。また、炎上参加者の世帯年収平均値は、非参加者に比べて80万円ほど高い。もちろんそういう人たちばかりではないのですが、傾向としてそういう結果は出ています。

吉澤|素人的な印象ですが、社会的に色々ストレスを抱えている人たち、っていうことが言えるのでしょうか?

山口|そういう要素もあると思いますが、その背景には2点ほど着目すべきポイントがあります。まず1点目ですが、知識が豊富であるということです。中には(誹謗中傷の投稿をする人は)ラジオの聴取時間が長いというデータもあります。要するに、情報に対して感度が強く、政治などに対しても、確固たる考えを持っているわけですね。だから、自分と違う考えを持つ人が発信をしていると、「お前は何も分かっていない」という思いを強く抱き、攻撃をしかけてしまう、ということです。

吉澤|なるほど。自己正義感と通じるものがありますね。

山口|2点目は「叱りつける」といった側面です。以前クレーマーの研究をしている関西大学の池内裕美先生から聞いた話ですが、悪質クレーマーの属性として多いのは、男性、お金持ちで、大企業の役員などを経験した役職者という傾向があるようなんですね。そういう方々の一部が、偉そうに叱りつける。これと構図はとても似ているわけです。自分は正しくて、相手を叱っているんだ、という感覚で中傷的な投稿をしてしまう。エスカレートすると、個人情報を特定して晒し上げるということまでいってしまう

吉澤|世を正そうとしているその行為が、逆に世の中を混乱させているわけですね。

山口|突き詰めていくと、彼らのプライベートのなかに何かしら不安要素があって、その不安から解放されるために他者をバッシングするんじゃないか、ということも脳科学的には考えられています。実際にある炎上事例では、誹謗中傷を書きこんで書類送検された人は、一見すると皆普通の人で、一様に「正義感からやった」と言っていました。ところが、話を掘っていくうちに、生活に大きな不安やストレスを抱えていることが分かったのです。バッシングする時って快楽物質であるドーパミンが出るらしいんですが、それにはまるとやめられなくなるんでしょうね。

「極端な人」が見える化された

吉澤|誹謗中傷をする人たちって、昔からいたと思うんですが、それが炎上という形になって現れたのは、やはりインターネットやSNSの登場が要因なのでしょうか?

山口|おっしゃる通り、昔からそういう人はいたわけです。昔はそれが、例えば会社内にいる面倒な上司、というところで止まっていたんですが、情報社会になってSNSが普及したことで、誰もが自由に発信・閲覧できるようになった。それによってその人たちが「見える化」された、ということなのだと思います。

吉澤|個人が自由に表現を伝えられるようになった分、そういったリスクも増えたということですね。

山口|インターネット上のほとんどが能動的な発信ですから、「言いたいことを言う」という世界です。だからこそ、特定の個人に対して、世界中から直接バッシングされる危険性があるわけです。昔では考えられないことですよね。人類有史以降、能動的な発信だけの言論空間がこれほど支配的になったのは初めてのことです。その中で、攻撃的な感情を抱いたごく一部の人たちが、極端な想いを持って発信する。かたや、それ以外の大半の人たちは、何も発信をせず見守ってしまう。こういう構図が出来てしまうわけです。実際、私の調査結果によれば、ネットユーザーの75%が、ネットには攻撃的な人が多いという印象を持っているんですね。本当は社会にいる人とネットにいる人はほとんど変わらないにも関わらず、このメカニズムから、あたかも攻撃的な人ばかりに見えてしまうわけです。

吉澤|ある意味、攻撃的な発信には影響力があるということですね。

山口|昔から社会にいた極端な人というのが、今、過剰に力をってしまっているんです。また、社会心理学的には、非対面のコミュニケーションだと、相手が人間であるという意識が薄れて、より攻撃的になってしまうということが言われています。

見ないで済む自由

吉澤|ネット社会のこうしたリスクを無くすには、どういった対策が必要だと思われますか?

山口|誹謗中傷的な書き込みをする人は、繰り返しになりますが、自分は正しいと思って行動しているんです。正しいと思っている人に、そんなことはやめましょうと言っても無駄なわけです。ここは根深い問題だと思います。対策としてポイントになるのは、情報を受信する側の視点に立つことだと思います。

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吉澤|と言いますと?

山口|ネットのリテラシー教育という文脈だと、情報の発信のほうに目が行きがちですが、自分が接している情報が果たして本当の情報なのか、フェイクなのかを見極められるスキルを身につける、ということです。あるいは、炎上しているように見えても、実は全体から見るとそれはごく少数の事案であることがわかれば、便乗して攻撃を仕掛けるということも防げるかもしれません。もちろん情報を発信する側も気をつけなければいけません。他者を尊重した上で発言しなければならないし、自分がやられて嫌なことは相手にもしないなど、基礎的な倫理観は必要です。ちょっとイラっとして攻撃的な投稿を思わずしてしまう、という心理はわかるんですが、そういう時こそ一呼吸おいてから冷静になるべきです。この辺りに関しては、御社のサービス(matte)は「投稿を思いとどまらせる」ことができる再考ツールという意味で、非常にプラットフォーム上価値のあるサービスだと思います。

吉澤|ネット上では個人が世界中誰とでも繋がれますからね。色々なリスクがそこに転がっていることを認識しないといけませんね。

山口|たくさんの情報が転がってるからこそ、自分が見たくないものは見ないで済みたいですよね。弁護士の徐東輝先生は「見たくないものを見ないで済む自由」と仰っているんですが、そうした権利を持つことも一つの選択肢です。どうしてもネット上では誹謗中傷的なコメントが目に入ってきてしまうわけです。よく芸能人とかに対して「嫌なら見るな」という批判がありますが、そういうわけにはいきません。ファンとの交流の場でさえもそういうことが起きたりしますから。ブロックやミュート機能というのもありますが、いたちごっこ感は否めません。何か、包括的にそこに対して対策できる打ち手というのも必要ではないでしょうか。

サイレントマジョリティをどう救うか

吉澤|ネット上だと一部の強い意見を持った人たちが表面化する一方で、大多数の誹謗中傷しない、そうしたコメントは見たくない、という「サイレントマジョリティ」の人たちが存在します。彼らに光を当てるには、どうしたらいいのでしょうか。

山口|インターネットが能動的な発信の場である限り、現在の環境においてはその問題はなかなか難しいものがあります。アンケート調査をとって彼らの意見を救うという手立てはありますが、アンケートですら、言いたい人が言うという問題があります。回答のカバー率を高くすることも一部の企業の方々が工夫されていますが、何か事件が起きた時に、そういう調査データが可視化されていけば、少しは救えることになるかもしれません。あるいは、ソーシャルリスニングという領域で、SNSの声を分析する手法もありますよね。こういう部分でピックアップしてくこともできるかな、と思います。

吉澤|これまでの話を伺っててちょっと思ったんですが、サイレントマジョリティの人たちは、特に意見はもたない中間の人たちっていうイメージがあるんですが、彼らが炎上している投稿に接していくことで、徐々に右寄りの思想、左寄りの思想という風に変わっていってしまうということも考えられませんか?

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山口|起こり得ることだとは思います。よくエコーチェンバーという表現をしますが、ネット上では自分と同じような考えの人と繋がっていた方が楽で、その中に閉じて議論をしていると、集団極性化によって意見がより先鋭化していき、特定の信念が強化されていくということは容易に想像がつきます。

吉澤|母数自体はそこまで多くない気もしますが、一定数そうした現象は起きそうですね。

山口|ただ一方で、慶應義塾大学の田中辰雄教授は、「ネットは社会を分断しない」(角川新書)という本を出されていて、その中で、実はエコーチェンバーはそんなに起きていないという風に仰ってもいるんですね。これは正直どっちが正しいのかは私にはわかりません。両方とも実証研究結果がでているんです。

吉澤|なるほど。奥が深そうですね。

山口|私の研究で、与党に不利なフェイクニュースと野党に不利なフェイクニュースを2つ用意して、それによってどう考え方が変わったかを調査したことがあります。その結果分かったことは、支持に対する考えが薄い人ほど、考え方を変えやすいという傾向にありました。だとすると、フェイクニュースに限らず、強く賛成・反対している人たちというのはなかなか動くことはなく、一方でどちらでもいいよという立場の人たちは動きやすい。政治の世界では無党派層と呼ぶかもしれませんが、彼らが実は選挙など、民主主義というものに対して割と無視できない影響を持っているということが言えそうです。

吉澤|個人それぞれがやはり情報リテラシーを高めて、しっかり見極めていく力を身につける必要はありそうですね。

優良顧客が突然クレーマーに変わる

吉澤|ちなみに、これまでずっと右寄りだった人が、突然左に変わるっていうこともあり得ませんか?マーケティングの世界に置き換えると、そういうことがありそうだなと思っていて。例えば商品やブランドには一定数ロイヤルカスタマーという人たちが存在します。いわゆる商品のファンの人たちです。一方で、その対極には「クレーマー」と呼ばれる人たちが存在します。ここって表裏一体だと個人的には思っていて、これまで企業のファンだった人が、何かちょっとした不満を経験したことで、突然クレーマーに変わってしまう、ということもある気がしていて。

山口|それは私もあり得ると思います。優良顧客と呼ばれる方々は、ものすごく強い思いを持ってるじゃないですか。それがもし裏切られたと感じてしまうと、真逆にいってしまうということはあるでしょう。振り切っている人は、どちらにも振りやすい、ということなのだと思います。

吉澤|企業側がどう消費者と向き合うか、という論点も出てきそうですね。

山口|中間層というか、ライトなファンの人たちというのも大事にしなければならない、ということかもしれませんね。総ソーシャルメディア時代のこのご時世、炎上したときに企業を救ってくれるのは、もしかしたらそのライトに接してくれる人たちかもしれません。何かをやらかしたとしても、遠くから見守っているというか。彼らをどう囲い込んでおくかというのも重要なのかもしれませんね。

アーキテクチャの再構築

吉澤|こうしたネット中傷者の実態を踏まえたうえで、どう彼らと対峙すべきなのか。今のところ、そのベストなアプローチは何なのでしょうか。

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山口|SNSのアーキテクチャをどう変えていくべきか、ということかもしれません。結局、人間だけではどうしようもないことはやはりあって、プラットフォーム側がその問題にしっかり取り組んでいくべきだと思うし、実際そういう動きはいま活発ですよね。表現の自由を脅かさず、かつ健全なSNSの環境を展開していくにはどういうプラットフォームであるべきか。人工知能などを使って、建設的な議論ができるようなアルゴリズムを開発したり、アーキテクチャで解決していくというのは絶対重要なことです。あとは、マスメディアの構造や考え方も変わっていくべきでしょうね。

吉澤|最後に、今後山口先生が取り組みたい研究課題についてお聞かせください。

山口|フェイクニュースの問題についてはもっと掘り下げていく必要があると思っています。どういうことをすれば、人はフェイクニュースに騙されずに済むのか、ということですね。リテラシーの教育という観点でも、何が正解なのか誰も答えがない状態です。この情報社会において、そこをしっかり検証していくことで健全な情報社会の発展に寄与できるのではと考えています。

吉澤|貴重なインタビュー、ありがとうございました。

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