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組織や人間関係の課題を解決して、人を幸せに。心理学を活かして組織を強くする「ソダーツ」【メンタルコンパス株式会社 様】

アディッシュ公式noteでは、さまざまな業界で新しい視点の事業を推進するスタートアップ企業をご紹介しています。
本日ご紹介するのは、 行動心理学とAIで組織の強みを掘り起こす「ソダーツ」を開発するメンタルコンパス株式会社です。同社を設立し、現在は代表精神科医としてソダーツを支える、伊井俊貴様にお話を伺いました。

リソース(強み)を認識すると、組織が勝手に「ソダーツ」

── まずは「ソダーツ」について教えて下さい。
 
僕は富山県の出身で、富山大学医学部を卒業後に精神科専門医になっています。これまで人の行動をどう変えるかという行動療法を専門に活動してきました。また今でも現役の精神科の医師として、愛知医科大学の非常勤講師として働いています。その活動の中で、精神疾患の原因の多くは組織の人間関係にあるということを知ったんです。
 
これまでも組織や人間関係の課題を解決するサービスはありました。ただそれらがちゃんと心理学などの学術的知見に基づいて開発されているかというと、必ずしもそうではありません。それでちゃんと心理学に基づいて長期的な効果が出せるサービスを開発したいと考えたんです。
 
そういった思いから、僕のこれまでの行動心理学・精神科医・行動療法の知見を組織に転用しようと開発したのが「ソダーツ」です。行動心理学とAIで強みを掘り起こして組織は勝手に「ソダーツ(育つ)」をコンセプトにしています。

── そもそも行動心理学における行動療法では、個人に対してどのような治療をするのでしょうか。
 
例えば人混みでパニック障害を起こす患者の治療をするとしましょう。既存の治療法は、不安になってもポジティブに考えるようなトレーニングをするといったものです。とはいえ「ポジティブに考えて人混みに行っても、怖いものは怖い」と感じる患者は少なくありませんでした。
 
では今はどうしているのか。簡単に説明すると以下のようになります。まず「最近楽しかったことはなんですか」といった質問をして、例えば「京都への旅行が楽しかった」という答えが返ってきたとします。この「旅行が楽しい」というのが、個人の強み(リソース)です。
 
続けて「じゃあまた京都に旅行に行きたいですね」と聞いたら「行きたいです」と返ってくるので、「行こうと思うと、どういう不安が発生しますか」「こういう不安だけど、やっぱり京都は行きたい」といった具合に会話を進めていきます。そうすると不安があっても行動できるようになって「不安だけど京都に行けた」という成功体験ができるわけです。それで「そんなに怖がらなくていいんだ」と思ったら、いつの間にか不安も少なくなっていきます。簡単に説明するとこんな仕組みです。
 
── ソダーツではこの考え方を組織に応用しているのですね。
 
その通りです。ソダーツでは、行動心理学を応用し、組織の強みを探すことにフォーカスしています。「全員参加の会議での意思決定はいい」「リーダーシップがすごい」「経営理念が気に入っている」なんていう意見を吸い上げて、組織が褒め合う文化を醸成するのです。

(資料提供:メンタルコンパス)

LINEやChatGPTを使って、組織の強みをあぶり出す

とはいえ、なんでもかんでも従業員からプラスの意見を吸い上げればいいというわけではありません。そこでソダーツが採用しているのが「コアデザイン原則」です。これは「協力できる組織に普遍的に必要な条件」のことで、ノーベル経済学賞も受賞した考え方です。コアデザインの8つの原則を意識しながら組織の強みを集め、組織を強くしていきます。

(資料提供:メンタルコンパス)

── 「ソダーツ」はどのように利用するのでしょうか。
 
大きなステップは3つです。15〜20人(内、管理職は3〜5人)のチームを前提に、①リソース(強み)を集めます。LINEを使って完全に匿名で、コアデザイン原則に基づいて普段感じている組織の強みを社員全員が入力。リソースを集めたら、②リソースを増やす段階に入ります。集計結果をChatGPTを使いながら、強みだと思われていることを分析。分析結果をメンタルコンパスのナビゲーターと組織の管理職が確認し、リソースを増やす計画を立てる。最終段階として、③これを毎月繰り返します。
 
── LINEにはどのようなことを入力するのでしょうか。
 
例えば「新製品の名称をみんなで決めたのは良かった」「頑張った時に、こういう報われ方をしたのが良かった」といったことです。それをコアデザイン原則に分類し、組織の強みを認識して、次の行動に活かしていきます。例えば「今回のプロジェクトの名称もみんなで決めよう」といった具合ですね。そうすると組織メンバーのモチベーションが高まっていくんです。
 
当然、大事なのは「プロジェクトの名称を決める」こと自体ではなく、「この組織ではみんなで意思決定するとメンバーのモチベーションが上がり、ひいては業績も上がる」ということです。もしかしたらこの組織では、トップダウンで決めたリモートワークは上手くいかなくても、みんなで決めたリモートワークは上手くいくかもしれません。

(資料提供:メンタルコンパス)

── ChatGPTはなぜ利用しているのでしょうか。
 
ChatGPTを使っていなかった時代のことです。ある企業で管理職の方々と行動計画を考えていたのですが、あまりアイディアが広がらず、苦労していました。しまいには僕に「どうすればいいですか」なんて聞かれてしまって(笑)。
 
それで試しにChatGPTの回答を議論のたたき台にしてディスカッションしたら盛り上がったんです。確かにとっかかりがあると話しやすくなるので、今はChatGPTに計画案をいくつか出してもらって、それをもとにディスカッションしています。
 
ChatGPTなども使いながら、ソダーツ・サイクルが毎月回せるようになれば、解決したい課題を目標に設定するだけで解決に必要なリソースが自然に増えていく、というわけです。

行動療法を個人向けから組織向けへ。ピボットを重ねて今の形に

── ソダーツは伊井さんがこれまで培ってきた個人への行動療法を組織に転用したものだと理解したのですが、行動療法は個人と組織で同じように適用できるものなのでしょうか。
 
ご指摘の通り、原理・原則が同じとはいえ、個人に対する行動療法を組織へフィットさせるのは大変でした。どうやったら適用できるのかわかるまでに何回もピボットしましたし、今の形になるまでに、結局5年ほどかかっています。
 
最初は、僕が個人向けに展開しているトレーニングを動画にして、それをみんなにやってもらえれば組織が変わるだろうと思って、試しに何社かにやってもらったんです。しかし全然うまくいかずでして、僕が浅はかでした(笑)。やはり個人の集合=全体ではなくて、これだけでは上手くいかなかったんですね。
 
じゃあトップダウンでやってもらおうと経営者向けに展開してみたいのですが、今度は下に上手く下ろせない。それで次に管理職向けにサービスを展開して、組織用に調整を重ね、現在のような形になってからは、次第に上手くいくようになってきました。
 
── 既に東証プライム上場企業グループや官公庁がソダーツを利用しています。導入した会社からはどのような感想が出ていますか?
 
管理職の大変さは年々増しています。特に最近は下手に厳しくするとパワハラだと言われ、かといって優しくしすぎると「育ててもらえない」「やりがいがない」と部下が辞めていってしまうかもしれない。どのあたりがちょうどいいバランスなのかを管理職は判断しあぐねているようです。
 
ソダーツはこういった管理職の悩みに対し「心理学で証明されているのはこういう方法で、次はこうやってみるといいよ」とアドバイスするものです。また先述したように、ソダーツはノーベル経済学賞を受賞したコアデザイン原則や心理学を元にしています。そのためエビデンスがあってフラットなサービスだと認識していただいていて、そういった点が官公庁や大企業から評価いただいています。
 
── ソダーツは月額定額で提供していますよね。組織の強みがわかれば自走できそうなので、ソダーツは何ヵ月・何年も使わなくていいのではないかとも感じたのですが、いかがでしょうか。
 
ソダーツに集まる初期の意見は、みんなが勝手に思い込んでいるものが多くて、それ故に初期の意見が良いことは稀なんです。でも、毎月続けているとそれもだんだんネタ切れになってきて、「今月は何を書こうかな」と悩みだす。それで「あ、こないだみんなでお疲れさま会をやったのは良かったな」なんて回答が浮かんでくる。大事なのはこの意見なんです。
 
しかもコアデザイン原則は8つあるので、それぞれの観点で複数の意見を出していくとなると、2〜3ヵ月では全然足りません。組織が変わるには2年程度必要というエビデンスもありますし、組織の人員構成も変わっていきますし、ソダーツはある程度の期間は使っていただけるといいかと思います。
 

組織や人間関係の課題を解決しないと、人は救われない

── 「ソダーツ」には、伊井さんの精神科医としての知見が活かされているとのことですが、どういった経緯でソダーツを開発することになったのでしょうか。
 
僕が精神科医になりたいと思ったのは中学生〜高校1年生のとき。本を読むのが好きで、脳や哲学に興味があったからです。医学部に行く人は普通、進学してから専門を決めるのですが、僕は精神科医になるために医学部に進学しています。
 
医者になってからは「日本若手精神科医の会」の代表になったりして海外の精神科医と交流する機会にも恵まれたのですが、彼らの活動が日本のそれとは全然違うことに驚きました。例えばアフリカだと、色んな部族のところに通って話を聞いて、「なんかあったら連絡してね」という活動をしていたりして。この経験から、精神科医としての活動は、色んなやり方があっていいんだと学びました。
 
翻って日本では、精神疾患を抱えた方には、1対1のカウンセリングで治療を施していきます。しかし治療がある程度成果を出しても、患者が原因となった組織や人間関係のところに戻ると、また発症してしまうというケースは少なくありません。だったら組織や人間関係をなんとかしなきゃダメだなと思って、ソダーツを開発することにしたんです。
 
精神科医をやりたかったのは人の問題を解決したかったから。でもそのためには個人だけじゃなくて、組織にも注目しなければならなかった。今この仕事をしていて、自分はこれがやりたかったんだと、しっくりきています。

── では最初から起業が選択肢にあったわけではなかったんですね。
 
そうなんです。僕がやりたいのは、あくまで心理学を使った目の前の人のサポートです。なのでスタートアップや社長にこだわっているわけではありません。それもあって今は、非常勤講師を務めている大学で偶然出会った細川涼偉君にCEOを任せ、僕は代表精神科医としてCTO的にソダーツを支えています。
 
── 最後に、今後のソダーツのビジョンを教えて下さい。
 
あくまで感覚値ですが、日本にいる管理職の10%がソダーツを使ってくれれば、日本全体が変わっていくんじゃないかと感じています。なので5万人の管理職に使ってもらい、日本全体の組織の心理的安全性を高めていく、というのが今の目標です。5万人というと大層に聞こえますが、日本最大のオンラインサロンがそれくらいなので、夢物語のような数字ではないと思っています。
 
またこれはCEOの細川の問題意識なのですが、近年は、富める人と貧しい人、国と国などの対立・分断が深まっていると言われています。インターネットが広がれば広がるほど、自分たちの仲間同士だけで集まって、自分たちに都合のいいように事実を解釈し、自分たちの外側の人たちとぶつかり合っている。この解決策の一つに、他者の理解が必要なのは間違いありません。分断を解決するツールとしても、ソダーツを広めていけたらいいかなと考えています。

── 伊井さん、本日はありがとうございました!


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