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「写真」から工事現場DXを担う、工事写真台帳アプリ「ミライ工事」|【株式会社ミライ工事様】

アディッシュ公式noteでは、さまざまな業界で新しい視点の事業を推進するスタートアップ企業をご紹介しています。今回お話を伺ったのは、工事写真台帳アプリ「ミライ工事」を提供する株式会社ミライ工事です。

工事現場は人手不足や高齢化に加え、なかなかDXが進まないという課題を抱えています。そんな中同社は、工事写真台帳を現場で作れる工事写真アプリや施工管理アプリを提供し、「写真」を起点に工事現場のDXを進めています。

創業100周年を超える建設会社からカーブアウトしたという設立経緯や、工事現場が抱える課題をミライ工事はどのように解決するのか。代表の神山庸さんに聞きました。

※以下、主に会社を指す場合は「ミライ工事社」、サービスを指す場合は「ミライ工事」と表記します。

株式会社ミライ工事 代表取締役 社長 神山庸 様

2015年、太陽工業株式会社/情報システム部へ配属とともに社内「ミライ工事」プロジェクトに従事。2019年からは、土木製品と倉庫建築の営業webマーケティングにも携わり、webコンテンツの企画・作成、MAの設計・運用によりweb問合せを前年比で倍増させる。
2021年、株式会社ミライ工事を設立。代表取締役社長に就任。早稲田大学理工学部出身。

創業100周年の建設会社からカーブアウトして設立

── ミライ工事社設立の経緯を教えてください。
 
ミライ工事社は、太陽工業株式会社(以下「太陽工業」)からカーブアウトし、2021年に設立されました。同社は2022年に創業100周年を迎え、テント倉庫や膜天井施設などの膜構造建築物などの工事を請け負っている建設会社です。東京ドームやさいたまスタジアムなどの天井を覆うテントも担当しました。私は同社に2015年から在籍しています。
 
太陽工業は2010年に開催された上海万博でも工事を受注し、建設工事を担当していました。その際、現場の事務作業や資料作成で大変な負担がありました。当時はスマホが普及し始めた時で「スマホをうまく使えば社内業務を効率化できるんじゃないか」と上長が考え、スマホアプリを作る社内プロジェクトが始まりました。それで太陽工業の一部門としてミライ工事アプリを開発・提供していたら、おかげさまで次第にユーザー数も増えてきたんです。そうすると自然と、せっかくだから外販を目指そうという話が出てきました。
 
ただ、太陽工業はあくまで建設会社であり、ソフトウェア開発の会社ではありません。これ以上スケールするなら意思決定や人材採用のスピードを上げなくてはならない。そのためには建設会社内部にいるよりは、独立した企業体になったほうがいい。また上場を目指したいという思いもあり、太陽工業からのカーブアウトを決断し、ミライ工事社を設立しました。

── カーブアウトではなく、子会社にするなどの選択肢もあったのではないでしょうか。
 
そういう話も上がったのですが、やはり建設会社の中では事業戦略上の位置づけが不明確になってしまいます。社員全員がIT系の事業に明るいわけでもないといったこともあり、経営陣が気持ちよく送り出してくれました。
 
といっても、ミライ工事社は太陽工業内にオフィスを構えています。ミライ工事は建設現場を楽にするためのアプリで、特に太陽工業は元請け・下請け両方の立場から工事に関わるため、現場の意見をすぐに聞けて、色々な立場からアプリ開発の知見をもらえる環境があるのはありがたいことです。

お上の号令はあれど、工事現場のDXは進まず

── それでは、ミライ工事アプリの話も聞かせてください。そもそも今の建設現場は、マクロ的にどんな環境にあるのでしょうか。
 
実は、国内の建設投資額は2010年から毎年のように上昇しているんです。しかしながら、少子高齢化や3K(きつい・汚い・危険)の厳しい労働環境によって、工事現場の人手不足は年を追うごとに深刻になっています。さらに最近は、品質管理や残業時間規制といった安全・コンプライアンス面での規制も厳しくなってきて、資料作成にも膨大な時間が費やされるようになってきました。
 
また建設現場にはアナログなやり方がまだまだ跋扈していて、DXが遅々として進んでいません。もちろん中にはITリテラシーが高い方もいますが、1人でもデジタルツールやアカウントが付与されない人がいて全員が電子化できなければ、現場全体のDXは途端に難しくなります。また建設業者のほとんどは下請けで、「工事現場をDXしたい」と考えても、自社運用の範囲に限定した機能をもったツールは少なく、工事現場全員分のアカウント費用の負担も難しいのが現状です。
 
とはいえ、ITツールを使って資料提出を求める元請けも増えています。ですがそれはあくまで元請けとのやりとりだけのことです。現場では紙やエクセル、LINEが使われており、必ずしもDXは進んでいません。特に元請けと下請けの間に入る会社は負担が増しており、非常に疲弊してしまっています。
 
── 元請けはITツールを指定するなど、DXを推進しようとしているのですか?
 
その通りです。実は国交省も工事現場のDXを推進してはいるんです。それもあって元請け企業は下請け各社に「このITツールで資料を提出してください」と依頼しています。しかし下請けは色んな元請けと仕事をしているので、A社にはaというツールで提出するけどB社にはbというツールで提出するといった具合に、色んなツールを使わなくてはなりません。つまり、この現場は紙資料を電子化してaで提出して、あの現場は紙資料を電子化してbで提出して......といった状況になっているんです。そんなの辛いに決まっていますよね。しかも作成するのは提出資料だけでなく、事故防止用の点検表や元請け会社用の監査資料などもで、現場の負担は増すばかりです。

現場の「写真」にまつわる資料作成に特化したモバイルアプリ

── この状況を打破するのが「ミライ工事」というわけですね。
 
はい。ミライ工事はいくつかのアプリで構成されており、その内「ミライ工事写真」は、資料作成に特化した工事写真アプリで、業界全体のDXを推進しようとしています。他社の工事系アプリではコミュニケーションやデータの一元管理を目的にしているものが多いと認識していますが、ミライ工事写真は建設業の事務作業の中でもボリュームの多い「写真」にまつわる資料作成に特化しており、加えて点検表やチェックリスト、工事日報や安全パトロールの是正、改善報告書などの作成が可能となっています。

先述したように建設現場の人手不足は深刻で、現場には70歳近い高齢の方も少なくありません。そういった方々が使いやすいように、文字を大きくしたり、表記を(英語やカタカナでなく)日本語にしたりといったことにもこだわり、業界の方全員に使っていただきたいと思って開発しています。またモバイルアプリで資料を作成・編集でき、操作が完結する点もミライ工事の特徴です。
 
── パソコンで作業した方が効率的にも思えますが、なぜアプリでの操作が重要になるのでしょうか。
 
ほとんどの現場には仮設事務所やインターネット環境があるわけではありません。そのためモバイルで操作できることは非常に重要なんです。太陽工業も従業員600人程度の会社ですが、ほとんどの現場では車の助手席でパソコンを立ち上げて資料操作をすることが多くなっています。近隣住民への配慮もあってアイドリングもできないので、冬場は寒くて大変です。なのでモバイルで完結するというところは現場の人にとっては嬉しいのではないかと思います。と言ってもパソコンで作業したい場合もあるでしょうから、そのために「ミライ工事web版」も用意しました。


工事現場でミライ工事写真を使っている様子

── ミライ工事写真はエクセルでデータをアウトプットすることも可能なんですね。
 
はい。例えば、元請けであるスーパーゼネコンから「テント工事の写真資料を、このITツールで提出してください」という依頼を請け負ったとしましょう。だったらそのITツールを使って提出すれば話は終わりのように思えますが、ゼネコンの担当者は必要に応じて資料を加工するため、当該資料はエクセルでも欲しいんです。そんなことをやっているからDXが進まないとも言えますが、それが現場のニーズなんです。

── 現場に便利な機能がミライ工事写真には揃っているというわけですね。
 
はい。他にもミライ工事社では、工事現場に関わる業務をクラウドで一元管理し効率化する施工管理アプリ「ミライ工事DX」もリリースしています。これはミライ工事写真と連動することで、点検日報の業務を効率化し、プロジェクト管理を円滑にするアプリです。図面を協力会社と共有したり、予定表やトークといった機能も備えています。
 
その点ミライ工事には、カスタムエクセル台帳作成機能が実装されており、指定のエクセルフォーマットをアップロードすれば、それに沿ったレイアウトで資料を出力できるようになっています。そのままミライ工事内でデータを共有していただいてもいいですし、エクスポートしてまたエクセルにすることも可能です。

増える日本式海外工事でも使えるアプリへ

── ミライ工事は無料会員でもかなりの機能を使えるとのことです。マネタイズはどうしているのでしょうか。
 
まず前提として、(ミライ工事ではなく他社の)現場のコミュニケーションアプリは、1人でも使えない方がいたら機能しませんよね。しかしミライ工事アプリは資料作成に特化しているため、導入企業の全員が使う必要はありません。そのため、データを入力するだけなら無料で使える仕様としています。
 
例えば太陽工業がミライ工事アプリを導入していれば、太陽工業は元請けも下請けもアプリへ招待でき、招待された企業は無料でアプリを利用し、必要な写真資料を作成・報告できます。有料会員になる必要があるのはデータを保有・加工する必要がある太陽工業の(一部の)方だけです。太陽工業がエクセルで出力したい、元請け指定のレイアウトでエクセルを登録したいといった場合には、課金していただく必要があります。
 
── どんな規模の会社でもミライ工事アプリは使えそうですね。
 
そうですね。主なターゲットは(施工主が個人ではない)toB事業を展開している下請け会社ですが、規模は関係なくどんなサイズの会社でもご利用いただけます。平均的には従業員50名以下の会社で多く使っていただいています。これは専門工事で下請けに回ることが多い規模の会社ですね。おかげさまで、ユーザー数は毎年2倍のペースで増えています。
 
── すごいですね。どのような営業活動をしているのでしょうか。
 
これまではほとんどがインバウンドでしたが、最近ウェブマーケティングも始めました。また2024年1月からはテレビCMも開始しています。現場の方だけでなく、内勤の部長職や情報システム部、経営企画の方々にも届けていきたいです。

【ミライ工事CM】こども監督とこども作業員編【字幕あり】

── 今後追加していきたい機能などを教えてください。
 
引き続き、資料作り関連の機能を拡大したいきたいと考えています。例えば、工事によっては20行×10列のチェックリストに写真を組み合わせた資料を制作しなくてはならないのですが、これだけ大きな資料をモバイルアプリで扱おうとすると、どうしてもまだ使いづらい面があります。ミライ工事アプリが、現場で発生する全ての資料作成をモバイルで完結させようとしていることに鑑みれば、まだまだ使い勝手も機能も完璧ではありません。課題に順々に対処していきたいですね。
 
── ミライ工事社の今後の展開を教えてください。
 
繰り返しになりますが、国内の建設業の人材不足や高齢化は深刻で、ミライ工事がこの状況を解決する一助になりたいと思って開発を進めています。一方、日本の建設会社が海外に進出するケースも増えているんです。特に東南アジアは開発が進んでいて、どんどん新しい建物が建設されています。そのため、現場の職人は現地の方で、現場監督は日本人で、日本式の業務・クオリティで仕事が進むというケースが今後は多くなると考えています。

ミライ工事は海外でも使われています


その際、日本語を話せない方がアプリを使いながら事務作業をする場面は必ず増えてきます。そのためミライ工事では、英語モードや、色でボタンの視認ができるようにしたりといった機能の開発を進めています。海外の現地の協力会社でも、ミライ工事なら初見でアプリで資料作成ができる。これが日本の建設業が輸出産業になるきっかけになればいいなと思っています。
 
── 神山さん、本日はありがとうございました!

※記事中の画像はすべてミライ工事様の提供です。
(取材協力:pilot boat)

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